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TOPページ![]() 〜プロローグ〜 昔、カリフォルニアのリカーショップを訪れた時の事。地ビールにはチョット詳しいつ もりでいた私にも、聞き覚えの無い小さな地ビール工房のビールが、棚中に所狭しと並ん でいるのをみて、アメリカのマイクロブルワリーがいかに盛んであるかを知りました。 ユニークなビールを飲めるビアハウスもひとつふたつと数を増やし、試し飲みをしてはい い気分になっていました。 しかし、日本ではここまで地ビールが盛んになるムードは無いし、あったとしても遠い 将来の事だろうと思っていたら、ビール醸造の規制緩和により、あっという間に日本の地 ビールブームは現実のものに成ってしまいました。 「地ビール」と言う物をどう捉えるかは人それぞれですが、日本においてこれ程までに 地ビールが、ひとつの地域産業として発展したのは、我々日本人の地域重視という特質に よるものが大きいと考えられます。 歴史的に見ても、日本人は「国家」というものと同様に、いやそれ以上に、「地域」を 重んじる国民性を持っています。それゆえ地ビールも、単なる嗜好品としてではなく、各 地方の地域産業として発達し、高い地位を得るに至りました。現に日本の各地に、それぞ れの気候や風土を生かした、地域の宝とも言うべき地ビールが数多く存在しています。
にもかかわらず、ビールに関する情報とその配信は、大手ビ ールメーカーに独占され、小規模の地ビール工房による作品に 関しての情報は、一般の消費者にはなかなか届かないのが現状 です。地ビールは我々が普通に飲んでいるラガービール(下面 発酵ビール)や発泡酒とは全く異なる風味を持つ物です。 そ して、その一つ一つは地方のビール職人たちの、幾多の試行錯 誤と深いこだわり、そして大自然の力により産出された地域の 宝であるにもかかわらず、この現実は大変残念なことです。 (地ビールレストラン) 私がこのホームページを立ち上げた理由は、本ページを通し てビール愛好家や一般の消費者の皆さんに、地ビールのことをもっと知ってもらいたい。 そうする事によって今までは、隠された秘宝であった地ビールがぐっと身近な物になり、 ひいては人生の友として楽しむ人達が増えることを願ってのことです。一人でも多くの方 に、地ビール紀行をご堪能いただければ幸いです。 (このページのトップへ) 〜地ビールの歴史〜 (ビールの起源・・・最古のビールって?) ビールはどうやって生まれたのだろう?と考える前に、そもそもビールとは何か?とい う本質的な事を考えれば、「麦芽を材料にした発泡性の醸造酒」といったところでしょう か。 この様に麦で作ったお酒といった広い考え方をするのなら、麦さえあれば、いつで もビールが出来うるといった少々乱暴な考え方も出来なくもないですね。 原始ビールの製造は、人類が農耕を始めたころ、つまり、8500年ぐらい前から始まった とされている文献や資料が多いのですが、チョット待ってください! 農耕が始まったか ら地上に麦が誕生したわけではありませんよね。 自然界にもともと麦があったから、そ れを大量かつ定期的に収穫できるように農耕が始まったわけでしょう。だったら、農耕の 始まりと原始ビールの起源を同時期と見るのはチョット・チョットといった感じがします よね。 しかし、さすがに液体を入れる入れ物(それもある程度の大きさの)は必要ですから 1〜2万年ぐらい前と考えるのが自然でしょう。始めは木をくり抜いた物や、大きめの貝殻 を使っていましたが、土器の発達によりアルコール飲料は季節ごとに作られ、たくさんの 人々の口に入るようになりました。 ここで注意したいことは、原始ビールはその全てが地ビールであるという事です。 そ りゃそうですよねー。原始時代にキリンビールやアサヒビールがある訳ないですもんねー 。当然自家製。よってビールの起源イコール地ビールの起源ということになります。 ところで、ビールが出来るには、まず麦の中のでんぷんが糖に分解して、その糖が酵母 によって発酵されてアルコールになるという2段階のプロセスが必要です。 でも、これ は何も科学的な装置がなくても可能です。人間の唾液に含まれているアミラーゼという酵 素を使うんですよ。 やり方はいたって簡単で、まず10人ぐらいの女性たちが輪になって座り、その真ん中に つぼをドンと置く。そして口の中に、おもむろに穀物を入れてモグモグと良く噛んだら、 つぼの中にベェ〜と吐く。これを繰り返して、つぼをいっぱいにしたら、そのまま2〜3日 放っておくと、理由は分からないが世にも不思議な液体になる。 何ともいえない美味さとポカポカと体の温まる快楽の虜になるわけですが、ここで大事 なのは、モグモグ・ベェ〜をしてくれた女性たちの顔は見ちゃいけないという事! これ が美しい乙女だったら問題ないが(少しはあるが)中年太りの元乙女や、それこそ棺おけ に片足突っ込んでいるようなお婆ちゃんがモグモグ・ベェ〜をやっていた日には「オエ〜 」と来るどころか、たましい抜かれますよね〜。 とは言っても、唾液のアミラーゼで、でんぷんは糖に分解され、野生酵母でアルコール になるという事は、アルコールの殺菌効果はあるし、なによりちゃんと酔っ払うわけです から飲み物としては成り立っていたようです。 ちなみにこの「噛み酒」という方法は今でもアマゾンの奥地で伝統的に行われているの ですが、やるのは女性と決まっているそうです。これを女性差別とは考えがたいところで すが、やはり何かを生み出すという事は女性の力によるものが多いのでしょうね。 (古代・中世のビールの興り)
原始ビールのことは、原始人の皆様におまかせするとして、 時間を古代・中世へと進めていくと、ヨーロッパがその舞台と なります。 早くからビールを作っていたのはゲルマン民族で あると考えられています。 とは言ってもゲルマン民族とビー ルについての資料はほとんど無く、ローマ人の記録の中に、20 00年ぐらい前からゲルマン民族が麦芽を原料にしたお酒を飲ん でいたと言うくだりがある程度です。 (ゲルマン人の攻撃) この頃栄えていた南ヨーロッパ、つまりローマ帝国では果物、とりわけブドウ作りが盛 んになっていて、収穫量も多かったため、これを原料としたワインを作る方が常識的だっ たわけです。 それもそのはず、果汁はそれ自体が糖なわけですから、ビールのように麦 を麦芽にしてからお湯に入れて麦汁を搾って、ホップを入れたり、酵母を入れたりと、面 倒くさいことをしなくても美味い酒が出来るのですから。 したがって、中世期までは、南ヨーロッパでは手間のかかるビールなどというものは作 られなかったのです。 しかし、ヨーロッパと申しましても広うございまして、寒い北ヨーロッパに行くとブド ウなんて物は無い、あっても高い。だから寒くても出来る麦を使ってアルコール飲料を作 るのが合理的というか、それしかなかった訳ですよ。チョット乱暴な言い方ですが・・・ この北ヨーロッパにおけるビール文化の先駆者は、やはりゲルマン民族であると考えて 間違いないでしょう。どのようにして醸造技術をみがいて行ったのかは、文献もほとんど 無く定かではありませんが、9世紀以降、南ヨーロッパでも大規模なビールプラントが建 設されるようになる前から、ゲルマン民族の間でビールが飲まれていたことは確かです。 イギリスとその周辺では(イギリスといっても当時はローマ帝国の一部ですが)蜂蜜か ら作ったミードというお酒が飲まれていましたが、今でも蜂蜜といえば高価なもの、養蜂 技術もそんなに進んでいなかった当時にしてみれば大変貴重な物でした。 ところが、民族大移動でやって来た、というか攻め込んで来た、ゲルマン民族のアング ロ・サクソン人のもたらした麦芽を原料にしたお酒、つまりビールを飲んでみたら、これ がメチャメチャ美味かった。 そして嬉しい事に原料が麦だから安く出来る。また当時のビールは1週間ぐらいで作っ ていたので早く飲める。 「うまい。安い。早い。」とまるで吉野家の牛丼みたいなこの ビールという飲み物は、あっという間にイギリス地方でもアルコール飲料のアイドルにな ってしまったわけです。 (天然の殺菌剤 ホップとの出合い) しかし、牛丼的なアイドルになったビールですが、時は中世。現在のような低温殺菌技 術や高性能な濾過機などがあるはずも無く、腐りやすいと言った欠点があったわけです。 よく呑んべえオヤジが「命がけで呑んでます」なんていうおバカな事を言っていますが、 腐ったビール飲んだら本当に死んじゃうんですよ。 これを驚異的な殺菌力で解決してくれたのが、8世紀ごろドイツのバイエルン地方で栽
培が始まった「ホップ」でございます。 当時のビールは 酵母によるアルコール発酵の成功率が低かったので、アル コール度も低く、また雑菌も多かったので腐敗しやすかっ たのです。 この問題をかなり解決し、何より船で遠くまで運べるよ うにした、航海に持って行けるようにしたのが、ホップだ ったわけです。 まさにホップ様様なわけです。 (ホップの実) ところで、皆さんご存知のとおりホップは苦味の素です よね。入れれば入れるほど賞味期限は延びますが、苦味も増します。 本来、苦味という ものは人間にとって有害なものです。「いや、そんなことはない、ビールは苦いから美味 いんだ。」という人もいるでしょうが、それは現在の食品加工技術によってもたらされる 爽やかな苦味のことでしょ。 昔、私の妻がフキノトウを苦味抜きもせず天ぷらにして出し、それを私がパクッとやっ た事がありましたが、あまりの苦さで、数分間はしゃべれません。動けません。地獄です 。以来妻には味見をしないで料理を出すなと言っていますが、ホップも負けず劣らず苦い んです。 中世においては、この苦味と殺菌作用とのバランスをとるのに相当な苦労があったと思 われます。現在のような衛生的なプラントの中では、ホップの力を借りなくとも雑菌の繁 殖を防ぐことが出来ますが、自然の中で作られるベルギービールのランビックなどでは今 でも大量のホップが使われています。 これに使うのは収穫から1年を越し、苦味の和ら いだ物を使います。 でないと私のように、しゃべれない・動けないの地獄を見ることに なりますから。 (近現代のビール史 黒色から金色へ) さて、時間をずっと前に進めて、近世以降、産業革命期からのビール史を見ていきまし ょう。現代人にとってラガータイプのビール(キリンのラガーじゃないですよ)は黄金色 が普通ですよね。もちろん世界的にもその傾向はあります。 しかしこの黄金色のビール というのは意外と歴史が浅く15世紀以降、ラガーの醸造、つまり下面醗酵醸造が確立し普 及した当時はデュンケルと呼ばれる黒ビールだったんです。下面醗酵とは何かについては 後ほどの「地ビールの種類」のコーナーでお話します。 ラガータイプのビールで、黒ビールと言われてもピンときませんが、当時は麦芽の焙燥 技術がまだ未熟だったので、深くローストされた麦芽が使われていたので、焦げの色で黒 くなってしまったわけです。 その後、産業革命によってさまざまな技術革新が進み、麦芽の焙燥技術も進み淡色の麦 芽が出来るようになりました。そして、この淡色麦芽がドイツ・バイエルン地方のビール 都市ミュンヘンで洗練され、淡色ラガーの初ヒット作「ミュンヘナー」が誕生したわけで す。 もっとも、淡色のビールといっても、産業革命期の段階では金色とはいかず赤茶色 といった感じでした。 (ビール史上最高傑作 ピルスナー誕生) ところで、19世紀後半、ドイツ・ミュンヘンで淡色麦芽ビールが大ブレイクしていた頃 、同じ淡色麦芽を使って、ついでに作り方もミュンヘンの真似をして、美味しいラガータ イプのビールを作ろうとしていた町がありました。ミュンヘンの東、お隣の国チェコのボ ヘミア地方のいなか町、ピルゼンです。
このピルゼンという町のビール醸造の歴史は古く、 またチェコのザーツ地方は良質で苦味の強いホップの 名産地でもありました。 また、バイエルンの水が硬 水であったのに対し、ピルゼンの水は軟水でした。 ピルゼンの人々が、どのようなビールを目指したか は分かりませんが、この軟水と、ザーツ地方の苦いホ ップと、隣の国から引張ってきたラガー醸造技術が劇 的に調和して生まれた地ビールこそ、地ビールの最高 傑作「ピルスナー」だったわけです。 (チェコ ピルゼン駅) 以後、ピルスナータイプのラガービールが、近代ビールの世界基準としての地位を不動 のものにして行くのですが、ラガー醸造のお株を取られたあげく、ミュンヘナーを軽々超 える世界的大ヒット作を作られてしまったバイエルンの人々の慌てようは、きっと大変な ものだったでしょうね。 しかし、ピルスナーというとドイツの地ビールという誤解をしている日本人が多いよう です。ドイツのビール王国としての高い名声が、そんな誤解を生んだのでしょうが、正し くは、隣の国チェコのピルゼン市の出身です。トリビア的な雑学として、酒の席で自慢し てください。 ところで、ピルスナーは飲めばすぐ分かる、スッキリ系のビールです。もともとビール という物は、麦芽やホップを沢山入れた、味のしっかりした物が古くから好まれていたの ですが、産業革命以後、冷蔵技術が発達し、ビールは冷やして飲むという新しいスタイル が急速に広がりました。 ピルスナーの持つ爽やかな苦さと、爽快なのど越しが、この新しいスタイルにベストマ ッチしたことが、歴史的な大ブレイクのポテンシャルを強力に引き上げていたのです。 (小さな巨人 酵母の発見) 冷蔵技術という新しいイノベーションが、ビールの世界にも新しい革命をもたらしてい た頃とほぼ同じ頃、ビール産業にもう1つの転機が訪れました。 酵母の発見です。
フランスの生物学者パスツールにより、ビールの醗酵、つまり 糖がアルコールと炭酸ガスに変化するのは、この酵母という微 生物の働きであるということが分かったのです。 これをきっかけに、酵母の純粋培養が可能となり、ビール産 業は全世界に広がっていきました。また、ビールを60度の温度 で、10分程度加熱し、有害な微生物だけを死滅させる 低温殺菌の技術もこの頃確立され、ビールの保存状態は良化し、 生産量も急速に拡大していきました。 (酵母の顕微鏡写真) そして、明治。 産業革命によってもたらされた、様々な新技術をひっさげたビール産業はついに日本上 陸を果たし、1869(明治2)年、明治政府の近代化事業の一つとして、横浜に日本最初の ビール醸造所が建設されるにいたったわけです。 (このページのトップへ) 〜地ビールが出来るまで〜 (まずは芽を出させて乾燥) ビールの原材料は麦芽です。英語で言うモルトですね。麦芽とは麦がチョットだけ芽を 出した物の事で、これを作ることをビール用語では製麦(せいばく)といいます。畑で麦 を作る事ではないのでお間違いなく。 麦芽の具体的な作り方は、まず麦を水に浸けます。そして、2〜3日してわずかに芽が出
て来たところで水から上げて、湿気と空気を与えながら4〜5日ね かせます。すると麦は麦自体の大きさより少し小さい位の芽を出 した状態まで成長します。この状態をグリーンモルトといいます。 このちっちゃな芽をつけた麦を焙燥(ばいそう)室に入れて焙燥 するのですが、焙燥というのはコーヒーで言う所の焙煎(ばいせ ん)の、温度をちょっと下げたものと言ったところでしょうか。 50度程度の温風で乾燥させ、最後に80度くらいまで温度を引き上 げ、麦芽を小麦色に仕上げて終了です。色の濃いビールにしたい のなら、100度とか120度まで温度を上げて、コーヒーの焙煎もど きにすればいいわけです。 これでビールの材料が出来たわけですが、何でわざわざ麦に芽 を出させる必要があるのか?という疑問がわくでしょう。それに は、それなりの訳がありまして、そもそも麦とは植物の種ですよ ね。自然が作る種というものは、厳しい冬を乗り越え、春になっ たら新しい命を産み出すエネルギーをでんぷんという形で蓄えた (麦芽) ものです。 このでんぷんの分子は、糖がたくさんつながって出来ていて、分子としての大きさが、 とても大きいんです。 でんぷんのこの状態は冬を越すのには最適なのですが、芽を出し 茎や葉を作るに当たっては、エネルギーとして使いやすい糖に分解されないと困るわけで 、それをやってくれるのがアミラーゼという酵素なわけです。 つまり、麦は春になって暖かくなると、水分を吸収して、自らアミラーゼ酵素を作り出 し、この酵素の力で、でんぷんを細かく分解して糖を作ります。そして、この糖こそが後 に投入するビール酵母という微生物のエサになるわけですよ。 酵母によるアルコール発酵とは、酵母が麦芽の中の糖をパクパク食べて、アルコールと 炭酸ガスを排出というか排泄することです。しかし、酵母は1〜10ミクロンの小ささの微 生物ですから、でんぷんの様な大きな分子は食べられません。そこで、でんぷんを細かく 分解し、酵母が食べやすい糖という物を作ってくれるアミラーゼ酵素を麦自身に作ってお いてもらわないと困るわけですね。 わざわざ、麦を発芽させて麦芽を作る理由がお分かり頂けたでしょうか。 余談ですが麦をただ水に浸ければ、芽を出すと思いますか?答えはノーです。先ほども 申しましたとおり、麦は種です。冬を越すためにある訳ですから1回冬が来てくれないと 納得してくれないんですよ。そこで冷蔵庫に入れて冬が来たと思わせるというか騙すわけ です。 すると麦は「オ〜冬が来たぞ〜!カチンカチンのでんぷんになって冬を越すぞ〜 !」とがんばるわけです。次に暖かい部屋の中に置いてやると、「オ〜春が来たぞ〜!ア ミラーゼ酵素を出して糖を作るぞ〜!」とがんばるわけです。 こういう麦のおバカなところに愛らしさを感じることが出来れば、ビールもよりいっそ う美味しく感じられるというものですね。 (麦汁の抽出と糖化) 麦汁を搾り出して糖化させ、ホップを入れていく事を「仕込み」といい、職人のうでが 問われる難しい仕事ですが、原理的には単純でレギュラーコーヒーを入れるようなもので すよ。コーヒー豆をミルで砕いて、フィルター紙をしいたドリップの中に入れ、やかんで ゆっくりお湯をそそぎ、最後に角砂糖をポンといったところでしょうか。 このコーヒーと角砂糖が、麦汁とホップみたいな物ですよ。まず最初に、大きな濾過機 に砕いた麦芽と50度ぐらいのお湯を入れます。麦芽を入れ終わったら、お湯をゆっくりと 入れてゆき、でんぷんとそれを分解する酵素を搾り出していきます。 コーヒーを入れる 時やかんをゆっくり回しながらお湯をそそぐあの感じですよ。
そして、麦芽が出がらしになる前にお湯を止め、美味しい 所だけを取ります。あまり搾り過ぎると苦味成分が出るので、 くれぐれもほどほどに。この搾り汁はストレートだと糖度が 高すぎて、アルコール度数が高くなりすぎるので、お湯を足 してアメリカンにして仕上げます。 これで麦汁の完成です。 しかし、この麦汁の中にホップをボンボン入れていくわけ ではありませ〜ん。コーヒーの角砂糖とはチョット違いま〜 す。 (搾りたての麦汁) 2時間ぐらいそのままの温度、つまり50度前後を保持し、麦汁自身が持っているタンパ ク質分解酵素の力でタンパク質を分解します。その後、65〜70度まで温度を上げます。こ こからが先に紹介したアミラーゼの出番です。でんぷんをドンドン分解してビール酵母の 大好物である糖を作り出していきます。 麦をわざわざ麦芽にした苦労がむくわれるのであります。 この作業は糖化と呼ばれるものですが、長くやれば良いというものではなく、せいぜい 1〜2時間です。糖化を止めるのは簡単で80度ぐらいまで温度を引き上げてやればいいんで す。温度を上げてやることでアミラーゼは失活し、同時に麦汁のベタベタ感をやわらげ、 サラッとした感じの液体になります。 あとはフィルターを通して麦の殻を完全に取り除 いたら、ホップの待つ煮沸釜(しゃふつがま)へと移動します。 (苦味ホップとアロマホップの投入) 煮沸釜とよばれる大きな釜に麦汁を移したら、一気に沸騰させて、まずは苦味用のホッ プを入れます。その時、シチューを煮込むようにコトコト煮込むのではなく、思いっきり ボコボコと地獄の釜ゆで式でいきます。 煮込む理由のひとつは、ホップの苦味を出すことです。もともとホップはアルファ酸と いう物質を持っていて、それが苦味の素なのですが、アルファ酸はそのままでは苦味があ まり強くないし、水にも溶けにくいんです。そこで加熱してやって、イソ・アルファ酸と いう形に変えてやる事で、苦味も増し、水にも溶けやすくなるわけです。 もう一つの理由は、麦汁の中に含まれているタンパク質があまり美味しくないので、凝 固させて、つまり固めてやって、取り除くわけです。 例えばタマゴの様な液体のタンパ ク質をゆでると固まって、その後は冷やしても元に戻らないですよね。あの手を使って麦 汁のタンパク質も固めてやって、あとで濾し取ってやるというわけです。 ところで、どうして地獄の釜ゆでの様に、激しくボコボコと沸騰させるかというと、麦 汁の中の油分を飛ばしてやるためです。これをしないと悪い臭いが残ってしまい、爽やか なビールにならないんですよ。 しかし、いくら激しく沸騰させるといっても、吹きこぼれてしまっては大切な麦汁が台 無しなので、人の手で加減をするのです。大手ビールメーカーの高性能な設備なら別です が、我々の愛する地ビール工房では、こういった灼熱地獄での職人たちの苦労もあるわけ です。 さて、煮込み終わったら、今度は香り付け用のアロマホップを投入します。香り付けと いうくらいですから、煮込んじゃダメですよ。せっかくの香りが飛んでしまいますからね 。クラムチャウダーを煮込んだら、火を止める直前に刻んだパセリをパッと放すあの感じ ですよ。 ジワジワ〜とかぐわしい香りをしみ込ませたところで、ホップの実と、先ほど固めたタ ンパク質を濾過機で濾し取り、熱交換器で冷ましながら、メインステージ、醗酵タンクへ と移動します。 (酵母によるアルコール発酵)
長い手間ひまを掛けられて、やっと醗酵タンクにたど り着いた麦汁に、ビールの命ともいうべき酵母が投入さ れ、ビールの一時醗酵が始まります。ここで使われる酵 母の種類によって、ラガータイプかエールタイプかに分 かれるのですが、我々が普通に飲んでいるラガータイプ のビール(キリンのラガーじゃありませんよ)では醗酵 温度は5〜10度といった低温で行われます。 低温とはいっても、酵母にとってここはまさに天国と いっていいでしょう。周りには大好きなエサばかり。他 の雑菌に捕食される心配もありませんから。この超過保 (醗酵タンク) 護状態の中で酵母は、たっぷりと酸素を吸収し、炭水化 物を代謝しながら、アルコール発酵の準備を着々と進め るのであります。 そして数時間後、酵母はエサである糖をパックパックと食べて、アルコールと炭酸ガス を排出していきます。アルコール発酵の始まりです。ところで、酵母は(他の微生物もそ うですが)食べることしか楽しみがありません。パチンコもカラオケもせずに、ひたすら 糖を食べ続けます。一日で麦汁は炭酸ガスの泡だらけ、2〜3日もすると醗酵タンクの表面 はクリーム状の泡に覆われます。 しかし、エサという物は食べれば減り、最後には無くなってしまいますよね。お金と一 緒ですね。一週間ぐらいで酵母は麦汁の中の糖を食べ尽くしてしまい、腹が減って死にそ うになるのですが、その時、酵母は驚くべき行動に出ます。 なんと、何匹かの内の一匹が自爆して、そいつが出した体液というか死体というかを食 べて、周りの酵母が生き残るのです。共食いといえば共食いですが、この様に仲間のため に誰かが切腹する行為を、酵母の自己消化といいます。 ただ、この自己消化は一気に起こるのではなく、まずは酵母の中の特定の物質がチョロ チョロと出始めて、時間をかけて全ての体液が放出されていくのです。ここで、大事なこ とがありまして、最初の方に出す物質はビールを美味しくしてくれる物、最後の方に出す 物質はビールをまずくする物なんです。こいつらややこしい事をやってくれますね〜。 ですから、酵母を兵糧攻めにして、半殺しにした所で麦汁の温度を一気に下げて、酵母 の活性を止めるわけです。死滅させるのではありません。人間でいう所の冷凍人間みたい な感じにするわけです。チョット残酷な感じもしますが、こうして無事一時醗酵が終わっ た若ビールは規定のアルコール度数を持ち、やっとビールと呼べる物になるのです。 また、酵母はタンクの底へ沈殿して行きますから、上澄みだけを取り、熟成樽へと移動し ます。 (熟成樽の中で二次醗酵) やっと最後の工程までやって来ましたが、熟成樽のなかではいったい何が起こっている のでしょうか? それは科学の時代といわれる現代でも、あまりよく分かっていないので す。はっきり分かるものとしては、炭酸ガスを麦汁に溶け込ませるという工程があります 。醗酵タンクの中で、一時醗酵している間は、酵母が糖を盛んに食べて、多量の炭酸ガス を出すので、タンク上部の隙間から炭酸ガスは放出します。 しかし、二次醗酵では酵母による炭酸ガスの排出は鈍化しますから、タンクの蓋をピタ ッと閉めて(ある程度の加減はしますが)、炭酸ガスをそのままビールに溶け込ませます 。これが、喉をピリピリと刺激するあの爽快感になるわけです。 もう一つ、熟成による香りの良化があります。但しこれは、何か香り成分を入れるわけ でもなければ、香り成分が発生するわけでもありません。要は醗酵によって出来た、ダイ アセチルなどの悪い臭いの成分が分解されて、良い香りだけが残るということです。 熟成により、香りが良くなり、味もまろやかになる理由の諸説が、学者達によって論じ られているところですが、はっきりした事は確認されておりません。 ワインやウイスキーでもいえる事ですが、やはり最後の仕上げは「天使のしわざ」と考え る方がビールもより美味しく飲めるというものではないでしょうか。 (このページのトップへ) 〜地ビールの種類〜 (ラガービールとエールビール) 地ビールに限らず、ビールの種類のことをビールスタイルといい、その数は何千種類に も及びます。はっきり分類されて、ちゃんと名前が付けられている物だけでも何百とあり 、我々専門家でも全部を熟知しているわけではありません。分け方も様々で、使う酵母、 醗酵温度、色、フレーバー、アルコール濃度、ホップ、そして地域など、難しいことを言 い出したら数日間、私とお付き合い頂くことになってしまう程です。 地ビールに関する情報と知識を配信しようという私が、こんな事をいうのも何ですが、 地ビールという物は、飲んで美味けりゃいい物であって、学問的な事を言っても退屈なだ けです。従って、インディアンペーリエールだとかアメリカンペーリエールだとか、はて またダークラガーだアンバーラガーだといった聞いた事も無いようなカタカナを並べるの ではなく、一般教養と呼べる範囲での大別を、酵母の違いの面からご紹介いたします。 まず、大きく分ければ以下の二つに分かれます。 ・上面醗酵エールビール群 (例 ヴァイツェン、ペーリエール、アルト、スタウト) ・下面醗酵ラガービール群 (例 ピルスナー、アメリカンラガー、メルツェン、ボック) 最初に言っておきますが、ラガービールというのはキリンのラガーじゃありませんから ね。ビールの大別を分かりやすく、酵母の大別から考えると、ラガー酵母とエール酵母に 分ける事が出来るという事です。 もっとも酵母だけが味の決め手ではないので、エール だから深く濃い味になるだとか、ラガーだからサッパリした味になると言うように、決め 付けることは出来ません。しかし、傾向があることは確かですので、そこらへんから見て いきましょう。 (下面醗酵ラガービール) 日本人が言うビール、とりわけコンビニや自販機で買って飲むだけの人が言うビールは 、全部がラガータイプのビールです。使われている酵母の種類がラガー酵母なわけです。 ラガー酵母は、5〜10度という低温で醗酵させますが、その際アルコールを発生させる だけでなく、エステルなどの強い香り成分もいくつか同時に発生させています。しかし、 低温の環境下では香り成分の発生は少ないので、日本人好みのスッキリした味わいに仕上 がることが多いという特徴を持ちます。
また、ラガービールが下面醗酵ビールと呼ばれるのは、醗酵が終わっ たラガー酵母がタンクの底の方に沈んでいく事からそう呼ばれています。 醗酵自体はタンクの中の全体で起こっているのであって、底の方で盛ん に起こっているわけではないのでお間違えのない様に。 ちなみに、このラガービール群はビールの歴史の中では、最近発見さ れた物であり、そのきっかけは、15世紀ごろドイツの寒い地方で、冬の 間蔵の中で保存していたビールを春になって出して飲んだら、とても美 味しかったというものです。 だから、ラガー酵母などという物の存在を知らなかった当時の人達は、 寒い所でビールを保存しておくとビールは美味しくなると思っていたわ けで、理由は分からないまま低温発酵醸造をしていたのです。 そしてこの冬の間の保存を表すドイツ語「ラガー」がラガービールの 語源となったわけです。 (ダークラガー) (上面醗酵エールビール) エール酵母の特徴は、なんと言ってもその醗酵温度の高さにあります。ラガーが5度程 度という低い温度で醗酵するのに対して、エールは20度前後という比較的高い温度で醗酵 させます。 先程、酵母がアルコールを発生する際、エステルなどの強い香り成分を出してしまうと 言いましたが、これも場合によっては良い物であり、フルーティーな香りとも言えます。 よく地ビールの商品紹介で、フルーティーな香りと言う宣伝文句がありますが、あれもリ ンゴやブドウを入れたと言うことではなく、この醗酵におけるエステル香の事です。醗酵 温度の高いエールビールにはこの特徴が多く現れます。 また、エールビールが上面醗酵と呼ばれる理由は、ラガーの場合と逆で、醗酵し終わっ たエール酵母がタンクの上の方に浮いてきて、表面を覆う事からそう呼ばれています。も ちろん温度を下げれば下に沈みますけどね。 そして、エール酵母による醗酵速度は温度が高い分、ラガーに比べて早いので、作り始 めてから早く飲めるというメリットもあります。 ところで皆さんの中には、ビールはキンキンに冷えてないと美味しくないと考える方も 居られるのではないかと思いますが、エールビールの場合、まろやかな香りも持ち味の一 つですから、あまり冷やし過ぎると本来の良さが楽しめなくなるので、程ほどに冷やして お召し上がりください。 この様に、ビールの種類と言うか大別を酵母の違いの面から紹介してきました。例外も 多いのですが、ラガービール群はスッキリ味、エールビール群は深みのある味と考えてい いでしょう。 (このページのトップへ) 〜地ビールとパートナーフード〜 今時、地ビールを塩を舐めながら飲むという人は聞きませんね。地ビール&その土地の 美味しい食べ物というのが、地ビールを楽しむ常識的なスタイルと言っていいでしょう。 本ページでは、この御つまみをパートナーフードとしてリンク集にまとめましたが、個々 のレシピや食材はそちらにゆずり、ここではビールとパートナーフードのマッチングにつ いて、考えてみたいと思います。 アルコール飲料としては古い歴史を持つビールですが、合う食べ物は何?と訊かれると とワインの様に、「この料理にはこのワイン、あの料理にはあのワイン」というような体 系性は思い付きませんよね。せいぜい「夏は枝豆かな〜、冬は鍋かな〜、お金のある時は 寿司かな〜」と言った様に、意外と漠然としているんです。 これには歴史的な理由があって、ビールと言う物は、庶民の身近な飲み物と言えば聞こ えは良いのですが、歴史的には、もともと貧乏人の飲み物。タバコで言えば、ハイライト 、しんせい、エコーと言ったところで、そういう庶民がビールと料理の組合せを楽しむほ ど豊かな食卓の前にはいなかったのです。 こう言うと皆さんは「お前はビール党を侮辱するのか」とお怒りになるかも知れません が、それは昔の話であって、ビールとパートナーフードの文化は、これから力強く発展し て行くことは間違いないのです。 しかし、今でもビールのパートナーフードと言えば、アメリカではピザ・ソーセージ・
タコス、日本ではチーズ・ソーセージといった感じの組合せが多 く、レストランでもワインにはメニューリストがあって目移りす るぐらいですが、ビールに関しては「うちはキリンかアサヒです 。」と言った何ともそっけないメニューであります。 どっちもピルスナー系のラガーで同じ様な物じゃないかと、ボ ヤキを言いたくなりますね。特徴を持ったビールが種類豊富に飲 まれるようになると、パートナーフードとの組合せも多様性を持 つのでしょうが、モルトの甘みと、ホップの苦味が微妙なバランスで成り立っているこの 飲み物は、パートナーフードを考えるシェフ達にとって、なかなかの強敵のようでもあり ます。 ですが、その反面デリケートなワインと違って、スパイスの効いたチキンや、辛味の強 いチリソースなどの刺激をやわらげ、同時にビール自体の美味さもアップするという側面 もあります。 そのせいか、ビアハウスではスパイシーな肉料理、ガーリックの効いたパスタ、爽やか な辛さの四川料理などが人気のパートナーフードとなっています。もちろん、日本の伝統 食の焼き鳥も西洋風のビアハウスにまで取り入れられ、その引き締まった塩コショウ味が 、エール、ラガーの違いを問わず、ビールを盛り立てています。 また、深みのあるエール系の地ビールは、サラダとも合います。魚貝のマリネやカニ、 森の香り豊かなホワイトアスパラガス、そして辛味の効いたドレッシングを組み合わせる 事で、より一層相性が良くなり味の相乗効果を生み出します。 揚げ物は、パートナーフードとして幅広く良い物です。淡白な美味しさの白身魚の天ぷ らや、サクサクとした歯ごたえの季節野菜のかき揚げ、そして、フライドポテトなどは、 ラガータイプのスッキリ感をよりスッキリにしてくれます。フライドチキンやカキフライ なども、香りの高いペーリエールを引き立てます。 しかし、地ビールとパートナーフードの組合せには、これといった方程式はありません 。長々と書いてきましたが結局のところは、その時の気分という事に成らざるを得ないの です。仮にパートナーフードの決め方が有るとすれば、まず地ビールを口に含み、次に鼻 に通るフレーバーを感じ、最後にのど越しを楽しむ5〜10秒間に、食べたい物を思い浮か べる。そして、それをその時点でのベスト・パートナー・フードとすると良いでしょう。 (このページのトップへ) (ドイツ・ミュンヘンのビアテラス) 平日のランチタイムも盛んにビールが飲まれている。
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